スポーツの素晴らしさは、人の心に一生残り、語り継ぎたくなる瞬間にあります。

2023年のWBC決勝、大谷翔平選手が盟友マイク・トラウト選手を三振に打ち取り、日本を優勝に導いたあの光景は、まさにその象徴でした。

私たちが大谷選手から受け取るべき最大の衝撃は、その華々しい結果だけではありません。彼が高校時代から持ち続けていた**「誰もやったことがないから、やってみる」**という、常識を覆す思考プロセスにあります。

大谷選手の言葉を通じて、私たちが日々の生活や仕事で「持続的な充実感」を得るためのヒントを探っていきます。

1. 「誰もやったことがない」がやる理由である

大谷選手がプロ入りする際、世間は「二刀流」という挑戦に対して極めて否定的でした。

プロ野球評論家や球界関係者からは「プロをナメている」とまで言われ、厳しい批判が浴びせられました。

当時の常識では、投手か打者かどちらかに専念するのが正解であり、「みんながやっていること」に従うのが安心への近道でした。しかし、大谷選手はこう答えました。

「(二刀流は)誰もやったことがないと言われてますけど、誰もやってないからこそ、やってるんですから」

心理学における持続的な幸福の要素の一つに**「達成(Achievement)」**がありますが、これは単に目標をクリアすることだけを指しません。

自分の内なる好奇心に従い、自律的に挑戦を選び取ること(自己決定)が、私たちの精神的な強さ(メンタルレジリエンス)を支えます。

大谷選手にとって、周囲の反対は「挑戦を諦める理由」ではなく、むしろ**「自分がやる意味」**へと変換されました。

2. 批判を「楽しさ」で超えていくイノベーターの資質

恩師である花巻東高校の佐々木洋監督でさえ、当初は大谷選手が卒業後すぐにメジャーへ挑戦すると思っていたため、日本で二刀流に挑戦するというアイデアは持っていませんでした。

周囲が「本当に大丈夫か」と心配し、深刻な顔をする中で、大谷選手本人は驚くほどあっけらかんとしていました。

佐々木監督からの電話に対しても、「大丈夫です。毎日、楽しくやってますよ」と意外な返答をしたといいます。

この**「明るく楽しそうにやる」**という姿勢こそが、大谷翔平というイノベーターの最大の魅力です。

幸福研究の視点で見ると、これは**「没頭(Flow)」**の状態に近いと言えます。

他人の評価や成功・失敗への不安に意識を向けるのではなく、「今、自分がやっていること」そのものに全神経を集中させる。この状態にあるとき、人は周囲の雑音から解放され、最大のパフォーマンスを発揮できるのです。

3. 淡々と毎日を積み重ねる

大谷選手の言葉の中に、私たちの日常にも深く突き刺さるフレーズがあります。

「ある日、突然に何かをつかむ瞬間が現れるかもしれない。だから毎日練習したくなる」

私たちはどうしても、目に見える「幸福」や「成功」というゴールを急いで手に入れようとしてしまいます。

しかし、大谷選手は「いつ訪れるかわからない瞬間」のために、日々の地道な練習を積み重ねることに価値を見出しています。

これは、持続的な幸福における**「意味(Meaning)」**の捉え方と重なります。

大きな成功という一点を目指すのではなく、日々の積み重ねの中に自分なりの「意味」を見出す。そうすることで、結果が出ない時期であっても、心は折れずに活動を続けることができます。

不安が多い環境であっても、「可能性がそこにあったら、僕はチャレンジしてみたい」と言い切る勇気。それは、自分を信じる力が外的な環境(他人の声)に左右されないほど強固であることを示しています。

4. 私たちが大谷思考から取り入れられること

高校時代から背が高く目立っていた彼が、その高い視座を維持し続けているのは、決して「特別だから」ではありません。

私たちが彼の生き方から学べる、今日から実践できるポイントは以下の3つです。

①「みんなと同じ」という安心を疑う

「誰もやっていないから、やらない」ではなく「誰もやっていないからこそ、やってみる」という選択肢を自分に与えてあげること。

②批判や不安を「楽しさ」で上書きする

他人の期待に応えるために頑張るのではなく、自分の内側にある「愉しい」という純粋な感覚を大切にすること。

③プロセスの美学を大切にする

成功は「ある日突然」訪れるもの。だからこそ、それまでの「何でもない毎日」の練習や仕事を愛すること。

幸福とは「状態」ではなく「挑戦の軌跡」である

大谷翔平選手の人生を見ていると、幸福とは「手に入れるもの」ではなく、**「不可能と思えることに向き合い、自分を更新し続けるプロセスそのもの」**であると感じさせられます。

新しいことに挑戦しようとして周囲の目が気になったり、先が見えない不安に襲われていたりしたら、ぜひ彼のこの言葉を思い出してください。

「まったく違う環境に行くということは、どの分野でも不安なことが多いと思う。でも、さらに良くなる可能性がそこにあったら、僕はチャレンジしてみたい」

自分の人生というフィールドで、自分だけの「二刀流」を見つけ、育てていく。その挑戦の先にこそ、誰にも奪われない持続的な充足感が待っているはずです。

参考文献